日本政策金融公庫の創業計画書|「事業の見通し(月平均)」欄の効果的な書き方をご紹介
「日本政策金融公庫から融資を受けようと思って創業計画書を作ってるんだけど、この『事業の見通し(月平均)』欄ってどうやって書いたらいいんだろう…」
そこでこの記事では
- 日本政策金融公庫の創業計画書の様式の「事業の見通し(月平均)」欄の具体的かつ効果的な書き方
などについて、行政書士として累計5000万円以上、日本政策金融公庫などの公的融資獲得にかかわってきたわたしがご紹介します。
日本政策金融公庫の創業計画書の「事業の見通し(月平均)」欄とは?
日本政策金融公庫の創業計画書の「事業の見通し(月平均)」欄とは、下記の欄のことです。
ここでは、事業を始めた後、実際の売上高などの数字がどのようになっていくかを
- 創業当初
- 1年後又は軌道に乗った後
に分けて記入する箇所になります。
また、その根拠も併せて記入していきます。
金融機関への返済は、一番下の利益の部分から行われますので、この部分が赤字(利益がない)になっている場合は、返済ができなくなることを意味します。
その場合は、各個別の数字をそれぞれ見直していったり、設備投資を減らしたり(購入するのをやめリースにする等)して数字を改善させるなど、収支計画を再検討する必要があります。
大切なのは現実的で実現可能性のある数字
しかし、ここで大切なのは単純に利益が大きければよいという訳ではありません。
一番大切なのは、過大評価した数字、過小評価した数字でもなく、現実的で実現可能性のある数字なのです。
そのためには
- 売上高は決して楽観的に考えない
- 経費はひとつひとつ細かいものまでもれなく計上する
ことが必要です。
個人事業の場合は利益から生活費を捻出する必要あり
また、個人事業の場合は、利益の部分からさらに事業主本人分の生活費を捻出することになります。
なので、その辺も考慮すると、この利益の部分は「金融機関への返済」+「25万円ほどの生活費(一般的な人の場合)」があることが現実的となるでしょう。
ただ、この生活費の部分も個々の状況によって違うので(例えば主婦の方が起業する場合で、夫がサラリーマンで日々の生活費には特に困っていない場合など)、生活が成り立つ状況になっていればよいと思われます。
感覚的に目指すところ
- 売上高は厳しめに見積もる
- 経費は最大限計上
⇒でも、返済もでき利益も出る(個人事業の場合は生活費を捻出できる)レベル
- 【創業当初】なんとかやっていける、とりあえずやっていけるレベル
- 【軌道に乗った後】多少ゆとりが出るレベル
上記を意識することが「楽観的ではなく現実的な見通し」につながるのではないかと思います。
この欄を改良(項目の追加)
わたしは行政書士として、今までお客さまの創業時の融資獲得をサポートしてきましたが、その際、いつも上記の表に下記の項目を追加して創業計画書を作成しておりました。
- 金融機関への返済金額
- 最終利益
下表のようにです。
「公庫さんへの返済までちゃんと考えてますよ~」とアピールするためにいつもこのようにしておりました。
でも実際、見る人にとっても、はじめのところでこのように書いてあった方が「結局、最終的にいくら手元に残るのか」がわかりやすいと思います。
また、自分としても「しまった!公庫への返済分を考えるのを忘れていた…」ということを防げるかと思います。
それではいよいよ、次から「事業の見通し(月平均)」欄の書き方について見ていきます。
次のように分けて見ていくよ!
- 売上高
- 売上原価(仕入高)
- 経費
- 金融機関への返済金額
- 1年後又は軌道に乗った後
「事業の見通し(月平均)」欄には、「創業当初」と「1年後又は軌道に乗った後」について各項目がありますが、まずは「創業当初」に記入することを想定して各項目を検討していきます。
【1】売上高
下記の順番で考えるのがよいと思います。
ただ単に売上高の数字だけが書いてあるようでは説得力に欠けるので、計算式や文章などを用いて「どうしてそれだけの売上が上がるのか?」という根拠を説明します。
また
- 過去に同業種の経験がある
- すでに受注している注文書や契約書などがある
などの場合はアピールポイントになりますので、積極的に記入・提示していきましょう。
- なんか書きにくい…
- これでいいか不安…
- 説得力を増したい…
などの場合は、公のデータや書籍などの情報を利用するといいでしょう。
うまく合わせて使うことで、独りよがりになりそうな自分の思いをカバーすることができます(売上高に対して多角的な視点ができる)。
それらを利用した場合は引用元を書いておくようにしましょう。
地域事情や季節要因なども考慮するなどして、多角的に売上高を予測することが大切です。
日本政策金融公庫のホームページに載っている売上高の書き方例
日本政策金融公庫のホームページでは、いくつかの業種において、売上高の計算方法についての参考例を載せています。
自分の創業する業種がそれに近い場合は、ひとつの参考にしてもいいでしょう。
〈算式〉 設備の生産能力 × 設備数
[例1] 業種:部品(ボルト)製造業
- 旋盤2台
- 1台当たりの生産能力 1日(8時間稼働)当たり500個
- 加工賃 1個当たり50円、月25日稼働
売上予測(1ヶ月)=50円×500個×2台×25日=125万円
〈算式〉 1平方メートル(または1坪)当たりの売上高 × 売場面積
[例2] 業種:コンビニエンスストア
- 売場面積 100平方メートル
- 1平方メートル当たりの売上高(月間) 16万円
(「小企業の経営指標」による業界平均から算出)
売上予測(1ヶ月)=16万円×100平方メートル=1600万円
〈算式〉 客単価 × 設備単位数(席数) × 回転数
[例3] 業種:理髪店
- 理髪椅子 2台
- 1日1台当たりの回転数 4.5回転
- 客単価 3,950円、月25日稼働
売上予測(1ヶ月)=3,950円×2台×4.5回転×25日=88万円
[例4] 業種:飲食業(居酒屋)
- 座席数 25席
- 1日あたりの座席回転数 昼0.8回転、月~木曜夜0.6回転、金・土曜夜0.9回転
- 客単価 昼900円、夜4500円、月26日稼働(日曜定休日)
売上予測(1 ヵ月)=248万円
(売上予測の内訳)
- 昼 900円×25席×0.8回転×26日=46万円
- 夜(月~木曜) 4500円×25席×0.6回転×18日=121万円
- 夜(金・土曜) 4500円×25席×0.9回転×8日=81万円
〈算式〉 従業者1人当たり売上高 × 従業者数
[例5] 業種:自動車小売業
- 従業者 3人
- 従業者1人当たりの売上高(月間) 256万円
(「小企業の経営指標」による業界平均から算出)
売上予測(1ヶ月)=256万円×3人=768万円
1平方メートル当たりの売上高や従業者1人当たりの売上高などについては、「小企業の経営指標」(日本政策金融公庫総合研究所編)などで調べる事ができます。
各種統計データ、白書
上記のような方法で書けない場合は、下記のような各種統計資料や同業種の平均的な売上高などを参考にします。
それらの資料はインターネットなどからも入手できるので、その中から最も自分の業種に近いものを当てはめて算出します。
【政府統計の総合窓口】
こちらのサイト「e-Stat 政府統計の総合窓口」は、日本の統計が閲覧できる政府統計ポータルサイトです。
都道府県、市区町村の主要データを見ることもできます。
【各官公庁の統計、白書一覧】
国勢調査、人口推計、家計調査、全国家計構造調査 他
貿易統計、法人企業統計、法人企業景気予測調査 他
【2】売上原価(仕入高)
売上原価(仕入高)の書き方についてご説明します。
売上原価(仕入高)とは?
売上原価とは、売上を上げるために直接かかった費用で、製造業の場合は製造原価、物販業の場合は仕入原価となります。
業種にもよりますが、売上原価はコストの大きな要素のひとつですので、機能や品質を維持しながら、どうやって売上原価を下げるかが非常に重要となります。
売上原価には、材料費、仕入商品、外注費などがあります。
- 【材料費】自社で製造・加工する場合における原材料費
- 【仕入商品】そのまま売れる形で仕入れた商品の購入費用
- 【外注費】外部業者に製造の一部などを委託した場合などにかかる費用
売上原価(仕入高)の書き方
この項目についても、計算式や文章を用いて、まずは自分の考えを率直に書いていけばいいかと思います。
ちなみに、日本政策金融公庫の創業計画書の記入例では、主に下記のような書き方をしております。
- 売上高×原価率
勤務時の経験などから上記のように記載するのもひとつです。
ただ、ここでも自分の実情に合わせてより具体的に書けると、より説得力が増します。
フランチャイズなどのようにすでに原価率が決まっている場合には、その数字に基づいて計算します。
製造業の場合は「製造原価明細表」を作成する
製造業であれば、製造原価明細表を作成し、製品を1個つくるのにかかる費用を計算・確認します。
材料などの原材料費だけでなく
- 加工する場合の加工賃
- 取扱説明書や保証書、外箱、ビニール袋などの梱包材のような副材料
- 梱包費や管理費などの作業賃
も忘れずに加えます。
商品開発・生産に伴う人件費や外注費は売上原価になるケースが多いので、原価として考えます。
また、工場などの設備がある場合は、その管理費用も原価として考えます。
つまり、製品を作るために必要なすべてのコストを売上原価として考えます。
実際の融資の場面においては、製造原価明細表まで求められることはほとんどないと思います。
しかし、利益に直結する部分でもありますので、「よく考えられている創業計画書」としてのイメージを与えるためにも作成した方がよいでしょう。
また、「見落している費用がないか」「十分にコストダウンできたか」「無駄がないか」などが自分でも確認できるので、より正確に利益を計算することができます。
その中で、他社との差別化できるポイントがあれば、面談時などに持参しアピールすることもできるでしょう。
小売業などの場合は「仕入商品一覧表」を作成する
仕入商品の場合は、商品ごとに「仕入先比較検討表」で仕入先を取引条件や強み・弱みなどで比較した後、「仕入商品一覧表」に転記する形で進めます。
取引条件には、単価、現金払い・掛払いといった支払条件、最低注文数量、発注から納品までの期間などが含まれます。
商品ごとに「仕入先比較検討表」で選定したら、自社で仕入する全商品をピックアップした「仕入商品一覧表」を作成します。
ここでの単価が売上原価につながっていきます。
製造業において、外部業者に製造などを委託する際の外注先を検討する場合にも、同じようなやり方で整理できます。
【3】経費
ここでのポイントをまずはひとつあげます。
- 経費は大きいものから小さいものまで、すべてもれなく計上すること
※記入例は後ほど「その他」欄でご紹介します。
すべての経費を計上していない場合は、「経費見込みが甘い!」ということになります。
融資面談の際に担当者から突っ込まれることになりますし、自分としても、実際に事業を始めたあと「経費が思ったよりもかかり手元にお金が残らないな~」ということになります。
それでは、日本政策金融公庫の創業計画書の様式に載っている下記項目を順番に見ていきます。
- 人件費
- 家賃
- 支払利息
- その他
(1)人件費
日本政策金融公庫のホームページにある記入例を参考にすればいいでしょう。
意識すべき点は下記の2点です。
- 働いている人数がわかるように記入する(どういう立場の人が何人いるか)
- 計算式を用いて算出する(特に、アルバイトなどは「時給×時間/日×日数」で計算する)
パートやアルバイトなどの人件費は、労働時間、出勤日数を掛け合わせたものを人数分計算して算出します。
個人事業の場合、事業主の家族の給料はここに含めますが、事業主本人の分はここには含めません(利益から支払われることになります)。
- 役員2人 40万円×2人=80万円
- 従業員2人 25万円×2人=50万円
- 専従者1人(妻) 8万円
- パート・アルバイト1人 9.6万円(時給800円×6時間/日×20日)
- 派遣社員1人 26万円(時給1,800円×7時間×20日=252,000)
- 個人事業および自分1人でのスタートなので、人件費はかかりません。
(2)家賃
借りようとしている物件の金額をそのまま記入します。
「見出し」を付けるほどの説明じゃないね…
(3)支払利息
借入予定額に、その融資ごとに定められた利率をかけたものを12で割って、1ヶ月当たりの支払額を算出します。
借入金が複数ある場合は、それぞれについて計算して合計します。
- 融資金額 600万円
- 融資利率 年2.2%
6,000,000円×2.2%÷12ヶ月=11,000円
上記の場合、1ヶ月当たりの支払利息は11,000円ということになります。
ここでの計算はあくまで便宜上となります。
実際は、時間の経過とともに借入金残高は減っていきますので、支払利息も徐々に減っていくことになります。
(4)その他
上記でご説明した経費(人件費、家賃、支払利息)以外の経費をここに記入していきます。
経費見込みが甘い!
と言われないように、もれなくすべて書き出していきましょう。
- 通信費(電話・FAX・携帯電話・インターネット接続料・郵送代):○万円
- 交通費(ガソリン代等):○万円
- 水道光熱費(ガス・水道・電気):○万円
- 広告宣伝費:○万円
- 車両維持費(保険料・車検代・修繕費・部品代・税金等):○万円
- 設備維持費:○万円
- リース代:○万円
- 交際費:○万円
- 出張費:○万円
- 社会保険料(事業主負担分):○万円
- 税理士による税務処理委託費用(初年度費用○○万円):○万円
- 諸会費:○万円
- 各種保険料:○万円
- 新聞図書費:○万円
- 消耗品費:○万円
- 事務用品費:○万円
- その他雑費:○万円
- 予備費:○万円
- その他 合計:○万円
さまざまなものがあると思いますので、各個人の実情に合わせて、経費をもれなく計上しましょう。
【4】金融機関への返済金額
- 300万円の借入
- 5年(60回)の返済希望
3,000,000円÷60回=50,000円(5万円/月の返済)
返済期間については特に決まりはありませんが、ある程度余裕をもって返済できるような期間を設定しましょう。
早く返してしまいたいということで返済期間を短くしすぎてしまうと、資金繰りが厳しくなるかもしれません。
かといって、あまりにも長く期間をとってしまうと、日本政策金融公庫の方で計画よりも短い期間で設定されることもあります。
それはわたしのこと…
行政書士を開業する際に70万円借りたとき、返済期間を計画書では5年にしたのに実際には3年にされた…
ざっくりですが、わたしの経験上では200万円ぐらいまでは3年、200万円~600万円ぐらいの場合は5年で計画を立てていたことが多かった印象があります(一つの目安としてください)。
【5】1年後又は軌道に乗った後
「創業当初」について記入できたら、次は「1年後又は軌道に乗った後」の売上高などについて記入していきます。
こちらは、先に書いた「創業当初」の内容を踏まえて書いていけばいいので、そこまで大変ではありません。
「軌道に乗った後」というぐらいなので、基本的には、「創業当初」で書いた売上高や利益などについて、もう少し余裕が出る内容を書いていけばいいと思います。
とはいえ、「なぜ売上が増えたのか?」などの説明が全くないと、「テキトーに書いたんじゃないの?」と思われてしまいます。
なので、そのあたりの理由についてはしっかりと説明したいところではあります。
売上原価や経費については、増えた売上に応じて、創業当初で書いた内容を調整していけばいいので、それほど難しくはありません。
ここでは、「なぜ売上が増えたのか?」についてしっかり説明するようにしましょう。
ただし、上記でも書きましたが、売上高に楽観的な予測は禁物です。
あくまで厳しめに見積もることは忘れてはいけません。
- 勤務時の経験
- 営業活動を続けることにより認知度が向上した
- 営業活動を強化するとともに競合他社の売上などをインターネットや雑誌などから調査して予測した結果
- インターネットでの検索に対して、自社のホームページが表示される回数が増えた(その結果、受注件数が創業当初の○倍に増えた など)
- 新規顧客を獲得していくとともに、リピート客の獲得も目指していきます。○○業界のデータでは、2回目以降の再来店をするリピート率は全体の70%~80%というデータが存在します(※○○○○株式会社調べ)。前職での経験上においても、その実績があります。またリピート客の再来店サイクルも、前職での経験上、約3ヶ月おきに来店される方が多いです。その結果、売上高については、創業当初の1.3倍程度と予測します。
上記を参考にしながら自分のケースを深堀して考え、「どうして創業当初より売上が増えるのか?」について書いていきましょう。